通信制高校と部活のプロ化優位性

アスリートのアドバンテージ:通信制高校はいかにして次世代のプロアスリートを育成しているか

序論:エリートユース育成におけるパラダイムシフト

現代の15歳のアスリートは、類稀なる才能を持ちながらも、キャリアの岐路に立たされている。彼らが直面するのは、旧来の全日制高校という教育システムである。毎日決まった時間に登校し、夕方まで授業に拘束されるこのシステムは、高度化・早期化するエリートレベルのトレーニング、国内外への遠征、そしてプロフェッショナルへの移行といった現代アスリートの要求と、構造的な矛盾を抱えている。
本レポートでは、この課題に対する明確な解決策として台頭してきた「通信制高校・サポート校」という教育モデルを検証する。かつては代替的な選択肢と見なされていたこのモデルは、今やアスリート育成のための戦略的エコシステムへと進化を遂げた。これは単にアスリートのスケジュールに「配慮する」というレベルの話ではない。彼らのプロへの道を能動的に「加速させる」ための構造的優位性を提供するものであり、全日制システムがその性質上、決して提供し得ないアドバンテージを内包している。本稿の目的は、この通信制高校モデルが、教育をアスリートのキャリアにおける障害から強力な推進力へと転換させるパラダイムシフトであることを、具体的な事例と詳細な分析を通じて論証することにある。


第1章:高校生活の再定義―アスリートのアドバンテージを支える構造的基盤

プロアスリートを目指す生徒にとって、通信制高校が提供する最大の価値は、その教育システムの構造的柔軟性にある。この柔軟性は、全日制高校のそれとは根本的に異なり、アスリートにとって最も重要な資源である「時間」の所有権を生徒自身に取り戻させる点に集約される。

「時間ベース」から「タスクベース」への転換

両者の違いを理解するためには、教育課程の思想的差異を把握する必要がある。

  • 全日制システム(時間ベース教育): このモデルは、生徒が毎日学校に登校し、定められた時間割に従って授業に出席することを前提とする [1]。学年制が基本であり、生徒の進級は年間の出席日数と定期試験の結果によって決定される [1]。成功の尺度は、教室で過ごした「時間」と、年間の課程を修了したかどうかに重きが置かれる。つまり、教育機関が生徒の平日日中の時間を完全に管理する構造である。
  • 通信制システム(タスクベース教育): 一方、通信制モデルは単位制を基本とし、生徒は定められた単位数を修得することで卒業資格を得る [1]。単位修得の手段は、レポートの提出、スクーリング(対面授業)、そして単位認定試験の合格であり、いつ、どこで学習を進めるかは生徒の裁量に大きく委ねられる [3]。スクーリングは年間数日からと非常に少なく設定されているコースも多く、生徒を物理的な場所や固定された時間割の束縛から解放する [2]

この差異がもたらす最も決定的な違いは、単なる「柔軟性」という言葉では表現しきれない。「時間の所有権」の根本的な移転である。全日制モデルでは、教育機関が生徒の平日約6〜8時間を所有する。しかし通信制モデルでは、生徒自身が自らのカレンダーを所有し、学習という「タスク」をいつ完了させるかを自ら決定する。この構造転換こそが、アスリートが圧倒的なアドバンテージを享受するための揺るぎない土台となる。全日制の生徒が学校に拘束されている週30〜40時間という膨大な時間を、通信制の生徒はトレーニング、コンディショニング、遠征、休息といった競技力向上に直結する活動へ戦略的に再配分できる。これは些細な利点ではなく、競技人生そのものを変えうる構造的な優位性なのである。

表1:プロアスリートを目指す生徒のための教育モデル比較分析

項目 全日制高校モデル 通信制高校・サポート校モデル
一日の時間的拘束 原則、平日の朝から夕方まで [2] 自己管理に基づく。学習時間は自由に設定可能 [3], [5]
スケジュール管理 学校が定めた固定時間割 [1] 生徒自身が練習や試合に合わせて計画 [6], [7]
学習形態 学年制。クラス単位での対面授業が中心 [1] 単位制。自主学習(レポート提出)が中心 [1], [4]
学習ペース 学校の進度に依存 個人の理解度や目標に応じて調整可能 [6], [8]
出席義務 規定の出席日数が必要 [5] スクーリング(年間数日〜)への参加のみ [2], [4]
遠征・大会への対応 出席日数が不足するリスク。公欠扱いにも限度 [7] スケジュールを自己調整できるため、国内外の遠征にも柔軟に対応可能 [9], [10]

第2章:自由時間からエリートトレーニングへ―カレンダーの戦略的活用

通信制高校がもたらす「時間の所有権」は、単なる自由時間ではない。それはプロを目指すアスリートにとって、ライバルと差をつけるための最も強力な武器となる。この時間をいかにして競技力向上に転換させるか、その具体的なプロセスと効果は、数々のトップアスリートの軌跡によって証明されている。

定量的なアドバンテージ:練習時間の最大化

全日制高校の部活動は、たとえ全国レベルの強豪校であっても、練習時間に制度的な制約を受ける。スポーツ庁や各都道府県の教育委員会が定めるガイドラインにより、生徒の健康維持や学業との両立を目的として、平日は2時間程度、休日は3〜4時間程度が活動時間の上限として推奨されている [11]。これは、どれだけ意欲のある生徒や指導者がいても越えられない制度上の壁である。
対照的に、通信制高校の生徒は、この制度的制約の外にいる。学習を早朝や夜間に集中させることで、日中の時間を丸ごとトレーニングに充てることが可能になる。例えば、第一学院高等学校のサッカー部では、午前から午後にかけてのメインの時間をサッカーの練習に充て、夜に学習を行うというカリキュラムを組んでいる [14]。これにより、全日制の生徒と比較して、練習時間を実質的に2倍から3倍に増やすことが可能となる。この圧倒的な練習量の差は、技術の習熟度、戦術理解、そしてフィジカルの強化において、決定的なアドバンテージを生み出す [5]

ケーススタディ1:畑岡奈紗(ゴルフ)―「量」と「集中」がもたらした偉業

女子プロゴルフの世界で活躍する畑岡奈紗選手の高校時代の選択は、通信制モデルの有効性を象徴している。彼女はゴルフに専念するため、意図的に通信制高校への進学・転校を選択した [15]。この選択により、彼女は全日制の生徒では到底不可能な練習時間を確保した。スイング改造の際には一日5〜6時間、あるいは一日中ラウンド練習に没頭することもあったという [15]
この膨大な練習量は、質的な変化をもたらした。高校2年生でナショナルチーム入り、世界ジュニアゴルフ選手権で個人・団体の2連覇を達成。そして極めつけは、高校在学中の2016年、国内メジャー大会である日本女子オープンゴルフ選手権で、史上初のアマチュア優勝という快挙を成し遂げた [9]。この偉業は、通信制高校という環境がなければ成し得なかったと言っても過言ではない。それは、世界レベルで戦うために必要な絶対的な練習量を確保し、競技に100%集中することを可能にした教育システムの勝利であった。

ケーススタディ2:香川真司(サッカー)―プロへのタイムラインを加速させる

元サッカー日本代表の香川真司選手のキャリアもまた、通信制高校の戦略的価値を明確に示している。FCみやぎバルセロナユースに所属していた彼は、高校2年生を終えた段階で宮城県の公立高校から通信制高校へ転校。これにより、高校3年生の1年間をセレッソ大阪のプロ選手として過ごすことが可能となった [17]
これは、同年代の選手たちがまだ高校サッカーの枠内でプレーしている間に、彼が一足早くプロの厳しい環境でトレーニングを積み、試合経験を重ねることを意味した。「1年でも早くレベルの高い環境に飛び込んで、自分を鍛えたかった」という彼の言葉通り、この1年間は彼のキャリアにおける決定的な「先行投資」となった [17]。結果として、同級生が高卒ルーキーとしてプロキャリアをスタートさせる年に、彼はプロ2年目として飛躍的な成長を遂げ、その後の欧州トップリーグへの移籍の礎を築いた。
この事例が示すのは、通信制モデルが単に練習時間を増やすだけでなく、アスリートの「キャリア・タイムライン」そのものを変革する力を持つということである。従来の「高校卒業→プロ契約」という直線的なキャリアパスではなく、「高校在学+プロ活動」という並行的なパスを可能にすることで、アスリートの成長曲線を急勾配にし、プロとしての成功確率を劇的に高めることができる。これは、教育システムを利用した高度なキャリア戦略なのである。


第3章:成功への青写真―パイオニア的教育機関の事例研究

通信制高校のアドバンテージは、理論上の可能性にとどまらない。その利点を最大限に活用し、プロアスリートを育成することを専門とする教育機関が、一個の「エコシステム」として確立されている。これらは単なる学校ではなく、通信制の枠組みを利用した高度な専門アスリートアカデミーである。

甲子園の夢、再創造:野球アカデミー

  • クラーク記念国際高等学校: 通信制高校でありながら、夏の甲子園に複数回出場し、全国にその名を轟かせる強豪校である [7]。同校のスポーツコースでは「午前は学習、午後は練習」という明確なスケジュールが組まれ、野球に集中できる環境が整備されている [20]。特筆すべきは、甲子園球場と同じサイズの専用天然芝グラウンド、全天候型の室内練習場、そして選手寮といったプロレベルのインフラを完備している点である [21]。この環境と、駒大岩見沢高校を率いて甲子園ベスト4に導いた名将・佐々木啓司監督の指導力が融合し、通信制の枠を超えた強さを実現している [23]
  • 地球環境高等学校: 2012年、通信制高校として初めて選抜高等学校野球大会(春の甲子園)に出場し、歴史の扉を開いたパイオニアである [7]。同校の強みは、週1日、週3日、あるいは年2回の集中スクーリングといった多様な学習スタイルを提供し、生徒が練習時間を最大化できる点にある [20]。この柔軟性により、高いレベルの選手が集まり、卒業生からはプロ野球選手も輩出している [20]

世界を見据えるピッチ:サッカーとJリーグの融合

  • 第一学院高等学校: 香川真司、柿谷曜一朗、酒井宏樹といった日本代表クラスの選手を輩出したことで知られる名門 [7]。サッカー中心に組まれた専門カリキュラムと、経験豊富なコーチ陣による指導体制が特徴である [14]。卒業生である山根視来選手が「通信制だからこそサッカーをメインにした高校生活が送れた」と語るように、プロを目指すための環境が徹底されている [29]
  • FC琉球高等学院: Jリーグクラブ(FC琉球)が直接運営する日本初のサポート校という画期的なモデルを確立 [30]。FC琉球U-18に所属する選手は、公式戦や遠征のスケジュールに合わせて学業カリキュラムを組むことができ、サッカーを最優先した生活を送れる [31]。さらに、クラブ経営や運営の実務を学ぶ「プレプロ教育」など、Jクラブならではの独自のプログラムが提供されており、教育とプロ育成の究極的な融合形を示している [31]

個の道を極める:ゴルフ、格闘技、そして多様な競技

  • ルネサンス高等学校(ゴルフ): 畑岡奈紗選手の母校として知られ、ゴルフ界で確固たる地位を築いている [9]。オンラインで完結する学習システムは、海外遠征やスポーツ留学を行う選手にとって最適であり、世界中どこからでも学習を継続できる [9]。年間4日程度のスクーリングという最小限の登校義務が、選手が競技に専念することを可能にしている [32]
  • 八洲学園大学国際高等学校(格闘技): 全国の格闘技ジムや道場と教育提携を結ぶというユニークなネットワークを構築 [33]。生徒は地元のハイレベルな指導者の下でトレーニングを続けながら、高校卒業資格を取得できる。元K-1王者の小比類巻貴之氏が総監督を務めることで、プログラムにプロの信頼性を与えている [33]。さらにタイでのムエタイ留学プログラムも提供し、グローバルな育成環境を整えている [35]
  • N高等学校(多様な個人競技): フィギュアスケートの紀平梨花選手や、スケートボード世界女王の織田夢海選手など、様々な競技のトップアスリートが在籍 [19]。デジタルネイティブな学習環境は、世界を転戦する個人競技の選手のライフスタイルと完全に合致しており、新時代のトップアスリートの受け皿となっている。

デジタルアリーナの覇者:eスポーツの台頭

  • eスポーツ高等学院: 伝統ある中央国際高等学校と、業界大手のNTTe-Sportsが産学協同で設立した日本初のeスポーツ専門サポート校 [40]。プロゲーマーによる直接指導、最新鋭の設備が整った「eスタジアム」、ゲーム戦略からメンタル・フィジカルケアまでを網羅した専門カリキュラムが提供される [40]。これは、通信制モデルがeスポーツのような新しいプロフェッショナル分野にも迅速かつ最適に対応できる、究極の適応性を示している。

表2:主要なスポーツ特化型通信制高校・サポート校の概要

学校名 種別 主要競技 プログラムの主な特徴 著名な卒業生・在校生
クラーク記念国際高等学校 通信制高校 野球、サッカー等 プロ仕様の練習施設、寮完備、名将による指導体制 [20], [21] (甲子園出場多数)
第一学院高等学校 通信制高校 サッカー、ゴルフ サッカー中心の専門カリキュラム、Jリーグ連携 [7], [28] 香川真司、柿谷曜一朗、酒井宏樹 [26]
FC琉球高等学院 サポート校 サッカー Jリーグクラブ直営、U-18ユースとの完全連携、プレプロ教育 [30] 澤田将 [31]
ルネサンス高等学校 通信制高校 ゴルフ、サッカー、卓球 世界中から学習可能なオンラインシステム、最小限の登校日数 [9], [32] 畑岡奈紗 [9]
八洲学園大学国際高等学校 通信制高校 格闘技(全般) 全国のジム・道場との提携ネットワーク、海外留学プログラム [33] 杉村昂汰(プロキックボクサー) [33]
eスポーツ高等学院 サポート校 eスポーツ 業界大手との産学連携、プロによる直接指導、専門施設 [40] (プロゲーマー輩出実績あり) [42]
N高等学校 通信制高校 個人競技全般 デジタル完結型の学習、グローバルな競技活動との両立 [19] 紀平梨花、織田夢海 [38], [39]

第4章:トレーニングを超えて―プロフェッショナルなマインドセットの育成

通信制高校モデルに対してしばしば指摘される課題は、その自由度の高さが故に、生徒に高度な自己管理能力を要求する点である [43]。計画性がなければ学習が滞り、卒業が困難になるリスクは確かに存在する [46]。しかし、エリートスポーツに特化したサポート校は、まさにこの課題を克服し、むしろそれをプロフェッショナルな資質を涵養する機会へと転換させるために設計されている。

構造化されたサポートによる自己管理能力の育成

優れたサポート校は、自由な学習環境に「構造」を与えることで、生徒の自律を支援する。AGKアスリート高等学院のような機関は、通信制の学習サポートを明確に打ち出し、レポート作成の支援や学習計画の管理、メンタルケアまでを提供する [49]。これにより、生徒は安心して競技に打ち込みながら、着実に高校卒業を目指すことができる。
このプロセスは、単なる学業支援にとどまらない。それは、プロアスリートに必須の資質を高校時代から体系的に育成するトレーニングそのものである。プロアスリートの生活は、誰かに管理されるものではなく、トレーニング、栄養、休息、自己分析といった要素を自ら計画し、実行する日々の連続である。通信制・サポート校モデルは、15歳からこの「プロフェッショナルの日常」を疑似体験させる。学習というタスクを、厳しいトレーニングスケジュールの中に自ら組み込むという日々の実践を通じて、生徒は自然と時間管理能力、目標設定能力、そして自己に対する説明責任能力を体得していく。これは、常にスケジュールが管理されている全日制の生徒が、卒業後に直面するであろうプロ生活への移行ギャップを、事前に埋める効果を持つ。つまり、この教育モデルは、競技スキルだけでなく、プロとして生き抜くための思考様式と行動習慣をも同時に育むのである。

アスリートの全体的育成(ホリスティック・ディベロップメント)

現代のトップアスリートに求められるのは、競技力だけではない。最先端のスポーツ特化型プログラムは、アスリートを多角的に育成するための包括的なカリキュラムを提供している。

  • スポーツ科学の導入: 多くの学校が、科学的根拠に基づいたトレーニングを導入している。定期的なフィジカルチェックやデータ分析を通じて個々の課題を可視化し、専門家が最適なトレーニングプランを設計する [50]
  • メンタル・心理的サポート: プレッシャーとの向き合い方、モチベーション維持の方法などを学ぶ専門講座や、カウンセラーによるサポート体制が整えられている [40]。トップアスリートを招いた講演会などを通じて、大舞台で戦うための心構えを直接学ぶ機会も提供される [53]
  • デュアルキャリアと将来設計: 開志創造高等学校のように、先進的な学校では、現役アスリートに必要なコンプライアンス知識やメディア対応、そして引退後のセカンドキャリアを見据えたキャリア教育も行われている [51]。これは、アスリートの人生全体を豊かにするための長期的な視点に立った教育である。
  • 経済的支援: 才能あるアスリートが経済的な理由で夢を諦めることがないよう、多くの学校が独自の特待生制度や奨学金制度を設けている。成績優秀者には授業料や入学金が免除されるなど、アスリートが競技に集中できる環境を経済面からも支えている [55]

第5章:旧来モデルが内包する構造的限界

通信制モデルの圧倒的優位性を論じる上で、全日制のトップ校との比較は不可欠である。大阪桐蔭高校(野球)や青森山田高校(サッカー)のような全国的な強豪校は、毎年数多くのプロ選手を輩出し、その育成システムは高く評価されている。しかし、その輝かしい実績の裏には、全日制という教育システムが課す、越えがたい構造的な「天井」が存在する。

全日制スポーツ強豪校の分析

  • 大阪桐蔭高校(野球): 驚異的な数のプロ野球選手を輩出しており、その実績は他の追随を許さない [60]。その育成モデルは、全日制の授業を終えた後、午後3時から6時間にも及ぶ高密度の練習と、寮生活による24時間体制の管理に基づいている [62]。少数精鋭ではなく、全国から集まったエリート選手たちによる熾烈な内部競争が、その強さの源泉となっている [63]
  • 青森山田高校(サッカー): サッカー界における絶対王者であり、220名もの部員を擁する巨大な組織である [64]。全国14以上の地域から選手が集まり、プロ同様の環境でしのぎを削る [65]。練習時間は平日でも3時間に及び、これもまた全日制の枠組みの中で最大限の時間を確保しようとする努力の表れである [64]

システムの制約下での成功―機会損失という視点

これらの学校の成功は、指導者の卓越した手腕と、限られた時間の中で最大限の成果を出すための驚異的な効率化の賜物である。彼らは、全日制という構造的制約の中で、可能な限りの最適解を導き出している。しかし、その成功はシステム「のおかげ」ではなく、システム「にもかかわらず」達成されているという側面を看過してはならない。
ここに「機会損失」という概念が浮かび上がる。青森山田の選手が3時間の全体練習を行う一方で、第一学院の選手は学習時間を夜にシフトすることで5〜6時間の練習時間を確保できる [14]。この1日2〜3時間の差は、1年間で数百時間という無視できない差となって蓄積される。また、大阪桐蔭や青森山田のモデルは、多数の部員による競争を通じて選手をふるいにかける「高圧的なフィルタリング」であるが故に、一人ひとりの選手に割かれる指導者の時間は必然的に限られる。
対照的に、通信制の特化型プログラムは、より少数の選手に対して、より多くの時間をかけ、個別最適化された指導を提供する「高密度な育成」モデルである。大阪桐蔭や青森山田がプロ選手を生み出すことは事実だが、そのシステムは、次代を担う真の天才―次なる大谷翔平や香川真司―にとって、必ずしも最適とは言えない。なぜなら、そのような傑出した才能の開花には、その数百時間の追加トレーニングや、より個別化されたアプローチが不可欠であるからだ。全日制のトップ校モデルは、その構造上、この「機会損失」を内包しており、それこそが通信制モデルが持つ「圧倒的優位性」の核心なのである。


結論:アスリート教育の未来

本レポートで検証してきた通り、通信制高校およびサポート校のモデルは、プロアスリートを目指す若者にとって、もはや単なる代替選択肢ではなく、最も戦略的かつ優位性の高い教育経路として確立された。その根幹にあるのは、以下の明確な論理的帰結である。

  1. 時間の所有権: 全日制の「時間ベース」教育から通信制の「タスクベース」教育への転換は、アスリートに最も重要な資源である「時間」の主導権をもたらす。
  2. キャリアの加速: 解放された時間を集中的なトレーニングに投下することで、技術習得を早め、プロとしてのキャリア開始を前倒しにすることを可能にする。
  3. 専門的エコシステム: 各競技に特化した専門アカデミーが、プロレベルの施設、指導、そして科学的サポートを提供し、才能を最大限に引き出す環境を整備している。
  4. プロ意識の涵養: 高度な自己管理を要求する学習スタイルは、サポート校の支援と組み合わさることで、プロアスリートに必須の自律性、計画性、責任感を育む最高のトレーニングとなる。
  5. 構造的限界の打破: 全日制モデルが内包する時間的・制度的制約という「天井」を取り払い、アスリートの潜在能力を無限に伸ばす可能性を提供する。

エリートアスリートがこの道を選択する潮流は、一過性のものではない。スポーツのグローバル化が進み、プロフェッショナル化がますます低年齢化する現代において、個々の目標達成のために最大限の適応性と集中力を提供できる教育システムが、野心的な若者たちの標準的な選択肢となることは必然である。通信制高校は、もはや例外的な存在ではない。それは、次世代のプロフェッショナルを鍛え上げるための、新たなゴールドスタンダードなのである。

引用文献
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  40. 40. 通信制高校のデメリット徹底解説!知っておきたい課題と、その克服法・対策 - ルネサンス高等学校, 11月 1, 2025にアクセス、 https://www.r-ac.jp/column/tsushin/merit/
  41. 41. 通信制高校はやめとけって本当?通信制高校をやめた方がいい人の特徴, 11月 1, 2025にアクセス、 https://www.tsuushinsei.net/article/tuushinsei-quittushinsei.html
  42. 42. 通信制高校はデメリットだらけ?【19選】向いてない人は、やめとけと言われる現実も徹底解説, 11月 1, 2025にアクセス、 https://tusin-high.com/demerit
  43. 43. 通信制高校のデメリット・対策は?メリットまで徹底解説 | Try Column - 個別教室のトライ, 11月 1, 2025にアクセス、 https://www.kobekyo.com/column/correspondence-highschool-demerit/
  44. 44. 通信制高校のデメリット10選!サポート校は不要? - 青楓館(せいふうかん)高等学院, 11月 1, 2025にアクセス、 https://seifukan-gakuin.com/merit-demerit/
  45. 45. 通信制高校のデメリットとメリットは?人気の理由も解説 - 13歳からの進路相談, 11月 1, 2025にアクセス、 https://sairu.school/blog/76
  46. 46. 本気でアスリートを目指す高校生へ 広域通信制高校サポート校「AGKアスリート高等学院」 2026年4月開校に向けて準備中! | 株式会社エイジェック, 11月 1, 2025にアクセス、 https://www.atpress.ne.jp/news/7129087
  47. 47. AGKアスリート高等学院 |, 11月 1, 2025にアクセス、 https://athlete-gakuin.agekke-ssc.com/
  48. 48. 広域通信制高校サポート校「AGKアスリート高等学院」2026年4月 ..., 11月 1, 2025にアクセス、 https://tsusinsei-guide.net/tsusinseinews/9807/
  49. 49. アスリート育成に特化 通信制高サポート校が来春開校 エイジェックグループが栃木市に, 11月 1, 2025にアクセス、 https://www.youtube.com/watch?v=0Egqim0IspE
  50. 50. アイディア高等学院の魅力を紹介!コース・口コミ・偏差値 - ウェルカム通信制高校ナビ, 11月 1, 2025にアクセス、 https://www.tsuushinsei.net/article/ideakotogakuin-kuchikomi.html
  51. 51. アスリート専攻 | 通信制高校(広域通信制)なら開志創造高校, 11月 1, 2025にアクセス、 https://kaishi-souzou.ed.jp/major/athlete/
  52. 52. サイバー大学 アスリート特待生奨学金, 11月 1, 2025にアクセス、 https://www.cyber-u.ac.jp/tuition/original_scholarship_02.html
  53. 53. 特別奨学生 - N高等学校, 11月 1, 2025にアクセス、 https://nnn.ed.jp/admission/scholar/
  54. 54. 本校独自の特待制度 - 酪農学園大学附属 とわの森三愛高等学校, 11月 1, 2025にアクセス、 https://www.san-ai.ed.jp/entrance/priority.html
  55. 55. 特待生制度のご案内 | 通信制高校・通信高校の一ツ葉高等学校, 11月 1, 2025にアクセス、 https://www.hitotsuba.ed.jp/entrance/scholarship/
  56. 56. 通信制高校の学費を徹底解説!知っておくべき費用と、利用できる助成金・奨学金, 11月 1, 2025にアクセス、 https://www.r-ac.jp/column/tsushin/gakuhi/
  57. 57. 4人がプロ入り…大阪桐蔭・最強世代を追い詰めた“偏差値68”府立進学校の監督が“まさかの異動”で「インフルエンサー兼バスケ部顧問」に転身のナゼ - 高校野球 - Number Web, 11月 1, 2025にアクセス、 https://number.bunshun.jp/articles/-/862665
  58. 58. 大阪桐蔭野球部の歴史と輩出したプロ野球選手たち - SPAIA, 11月 1, 2025にアクセス、 https://spaia.jp/column/baseball/hsb/4841
  59. 59. 目指せ「芯の太い集団」 高校野球界をリードする大阪桐蔭の日常と素顔 - スポーツナビ, 11月 1, 2025にアクセス、 https://sports.yahoo.co.jp/column/detail/2024031100005-spnavi
  60. 60. 大阪桐蔭高等学校(大阪)-チーム-通算成績 : 一球速報.com | OmyuTech, 11月 1, 2025にアクセス、 https://baseball.omyutech.com/teamTotalStats.action?teamId=13375
  61. 61. サッカー部 - 青森山田高等学校, 11月 1, 2025にアクセス、 https://www.aomoriyamada-hs.jp/%E3%82%B5%E3%83%83%E3%82%AB%E3%83%BC%E9%83%A8/
  62. 62. [高校サッカー選手権 出身地ランキング]圧倒的1位は? 前回王者・青森山田は14地域から集結、オール地元は5校! – REAL SPORTS(リアルスポーツ), 11月 1, 2025にアクセス、 https://real-sports.jp/page/articles/341417110884320278/
  63. 63. 日本のサッカーワールドカップ優勝のカギは働き方改革!? | コラム - エフリンク経営サポート, 11月 1, 2025にアクセス、 https://flink22.com/column015.html
  64. 64. 高校サッカー 青森山田高校の強さに迫る 朝練で個人の課題克服|強豪校 常勝校 | FMVスポーツ, 11月 1, 2025にアクセス、 https://fmv-mypage.fmworld.net/fmv-sports/post-14851/
  65. 65. 「高校年代からフィジカル強化を充実させなければ世界から大きな遅れをとってしまう」(3 / 3), 11月 1, 2025にアクセス、 https://www.healthcare.omron.co.jp/sports/voice/soccer/008/index3.html